朝の体が私に目覚めを告げる
まだ夢と現実の狭間のふわふわとした
黒い闇の中で私は浮かんでいる
まだここにいたいなあ
さっき感じたことは何だったかな
あの感覚は忘れたくないな
夢で起こったことを持ち帰るべく
私は夢の記憶をテーブルにひろげて
ひとつずつ精査する
これの場面はたしか……
あの場面のあの人は確か……
その感覚や質感 言葉や色は 私の宝物だ
落とさないように 大切にリュックに詰める
よし……これで持っていける
そう思える時もあるし
ああ、吸い込まれる……と
自然と帰ってしまうこともある
ただ 共通しているのは
この空間が心地よく 愛に溢れていて
誰もいなくて静かで 優しく包まれる
そんな場所だということ
遠くから優しい声がする
「そろそろでておいで
こっちの世界が待っているよ」
お腹がぐるぐると動き出す
ゆっくりと体の中心が地面へと差し出される
喉の渇きがある
鼻に空気が通り抜けていく
鳥の賑やかなチチチチチ……
人の穏やかな話し声
布団のぬくもり
遠くへいったまくら
太陽で光るカーテンの色
目の前の世界が一気に現れる
ふわりとした輪郭がゆっくりと形作る
ライト 布団 ベッド 棚 飲み物
背中にはぬくもり
きっちりした形のある世界
まだ朝早くて誰も起きていない
静かで穏やかな時間だ
さっきまでの柔らかい世界から持ってきた
リュックサックのことを思い出す
パンパンに詰まっていたはずなのに
気づけばそのリュックの底からこぼれていて
ほんの少ししか残っていない
それでもいい
その宝物を私は思い出す
精査して覚えていたはずのあの感覚は
はるか遠い記憶のように
触れられないまでになりそうだ
はやく はやく
どこかへ行ってしまう前に
必死でくらいつく
まって いかないで
やさしい体は私に触れる
「大丈夫、お前は忘れない
ちゃんとしっているから
安心して起きろ」
視界が鮮明になる
ただ目の前の画面に向かって
必死にあの瞬間を書き写す
動いていく雲をスケッチするように
今その瞬間を逃さないように
ただ その質感を思い出して
遠くまで行ってしまう前に
正しい言葉よりもまずは似ている言葉を置く
まずは言葉にしてあげたい
それが深いやさしいあの世界からの
大切な贈り物だから
必死で描いて
気づいたら時が経っている
外の明るさも光が増し
私を現実へ迎え入れようとしている
「わかったよ」
私は観念して布団から足を出し
ゆっくりと体を起こす
新しい1日の始まりだ
今日の贈り物は私に何を伝えたかったのだろう
それは私の朝の安らぎのアトリエだ
白石 静夜(しらいし しずや)