木々のさざめき

031. In the crowd

 

有名な甘い顔をした金髪の外国の歌手が画面に映る。

「When my hair's all but gone and my memory fades
And the crowds don't remember my name……
……When my hands don't play the strings the same way,
mm I know you will still love me the same……♪」

 

このラブソングはカラオケランキングの洋楽で1位だそう。
ずいぶん前のランキングだけどね。
歌詞を追う色の変わる字。タンバリンとマラカスの音。
うっとりとする若い女性社員たち。
この大部屋にいる上司の年代はこの曲を知らなさそうで、退屈そうに薄いサワーを口に運びながら画面を見ている。

 

私は歌っている同期の彼をじっと見る。甘い声で真剣に歌っている。
誰に向けて思いを乗せているんだろう。

「この人たちが僕のことを忘れても、僕は君を永遠に見続けるよ」……か。

彼がこの歌に思いを乗せる時、私たちは一般群衆なのだ。
マンガに書けば、私たちは一瞬で名前も顔も過去も未来もない、背景と化すのだ。

私は胸の奥に蔓延る鋭い痛みを隠しながら、デンモクをいじる。
あ、みつけた。これにしよう。

「おお、“プリプリ”か。いいね。」

上司が私ににこやかに声をかける。私も応答する。

「いいですよね!一緒に歌いますか?」
「お!歌おう!」

ギターの優しい演奏が甘い余韻を残す。
彼の声が途切れ、大きな拍手が上がる。

私は見逃さなかった。
部屋の角から拍手を忘れて、ピンクのきれいな爪で口元をふれながら涙目で彼を見ているあの子の姿を。

 

私はマイクを彼から受け取って高らかに言う。

「プリンセス・プリンセスの“M”です!歌える人歌いましょー!」

わああ!と盛り上がる声とタンバリン。
跳ねる私の足。
私の肩を組む上司。
私も上司の肩に手をかける。
楽しい、楽しいんだ。
これがカラオケだからさ。
喉がつまりそう。
大丈夫、上司と歌うからさ。
もっと明るい曲にすればよかった。

前奏が始まる。

……マイク、まだ温かいな。

 

 

 

白石 静夜(しらいし しずや)

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