木々のさざめき

035.やさしさ

今日の最高気温は39℃らしい。もはや生存ゲームだ。

会社内にいればクーラーがギンギンに効いている。パソコンがオーバーヒートしてしまっては大変だから。アプリ制作の会社において、死活問題だ。

ましてや俺がやっている零細の会社の中で、この街に事務所を構えられただけでも大したもんだろう。
俺は半そでと半ズボンとビーチサンダルで外に出てみる。
この街でこれ以上脱げるものはないというのに、太陽の熱は容赦なく肌を焼いてきて、ギラギラのアスファルトは足元から熱を放射し、その間にある空気はスチームサウナだ。
俺は何かに蒸し焼きにされているのだろうか。室内で考えて頭がヒートアップして、外に出たらクールダウンどころか煮えたぎってしまう。
クーラーで禁止された汗が”待っていました!”と言わんばかりに、毛穴という毛穴がから外へ出てくる。

コンビニでいつも飲んでいるホットのブラックコーヒーを買う予定だった。予定変更だ。今日はバニラアイスにする。

ダラダラとぼーっとする頭をなんとか動かしながらコンビニに到着する。天国だ。オアシスだ。砂漠の中で水を見つけたときのような命が救われる安堵感に満たされる。

一つだけアイスを買うのももったいない。仕事場から出てきたついでに、立ち読みでもしようかと雑誌を眺める。全て封がされていて、一つも開けることができない。だからといって、わざわざ新しい雑誌を買う気にもなれない。
仕方なく70円のバニラアイスと、レジの横にあったペットボトルのアイスコーヒーを手に取る。
レジの店員さんがすぐにバーコードを読み取り、会計金額を提示する。大学生のアルバイトの女の子だろうか。上京して頑張って働いているのだろうな。

オアシスから去ってしまう名残惜しさと、外の茹だるような暑さに戻ることを考える。ガンガンする気がする。自然と頭を抱えた。
「あの、大丈夫ですか?どうぞ、よがったら……」

店員さんが突然、俺に凍らせた200mLボトルの水をくれる。

「あ、え、いや、買ってないので。」
「ええんです。よがったら。」

少しなまった口調で俺にボトルを押し付けるようによこす。そんなに顔色が悪かっただろうか。訳も分からず黙って受け取った。

「これ、開げてないんで、冷やすんに使ってください」
「あ、どう、も……?」
「はい、どうぞ、気にせず使ってください!」

俺は冷たいボトルを手に持ったまま彼女を眺めた。
見ず知らずの俺に無償で何かをくれるなんて、天使か?汗もしたたる俺に惚れたか?

「あの、首とが冷やすとええですよ。」
「……あ、ああ。そうします。」

俺は、受け取ったボトルを右の首の脈打つ部分にあてて、コンビニを出た。
背中に少しなまった「ありがとうございました」の声。

なぜあの子は見ず知らずの俺に冷たいものをくれたのだろうか?
太陽のギラギラを目に入れてしまい、すぐに網膜に焼き付いてしまいそうで目をそらす。

またここに来たらちゃんとお礼を言おう。今日は無理だ。頭が回らなかった。この冷たいボトルは俺の新しいオアシスなのかもしれない。こんなに暑いのに、外に出る勇気をもらえる。

俺は職場に戻って気づいた。
ああ、アイスとコーヒーをコンビニに忘れてしまった。くそ。何してるんだ、俺。
仕方なくもらったペットボトルの氷水を開けて、少しだけ滴るキンキンに冷えた水を舌に落とした。

 

 

 

白石 静夜(しらいし しずや)

-木々のさざめき
-