風のささやき

030.朝の手前

私は知っている。あと少しで、この空が白ずんていくことを。

私は知っている。あと少しで、夜が明けることを。

私は知っている。この少しの時間が、一番暗いことを。

 

星が見えない夜、私はどこに行けばいいのかわからない。

北極星の導きもない、月の光もない真っ暗の中を、進んでいくしか方法はない。

足元も見えず、一歩先は崖になっているかもしれないという恐怖が常にそばにある。

光がもしみえても、それはまやかしだ。

何があっても、ただ感覚のままにまっすぐ進んでいくしか方法はないというのに。

 

肌に触れる風は優しい。しかし、味方ではない。

歩む先をあざ笑うかのように、顎に触れて、頬を撫で、髪をもてあそぶ。

怒りに任せてすっと吸い込んでやれば、それは嬉々として肺の中で跳ねまわる。

光はずっとそこに在ることを知っている。

知っているのに、たどり着けないのだ。

 

いいや、待っていればいつの間にか光が私を迎えてくれるだろう。

でも、追いたいんだ。

一刻でも早く、それに触れたいんだ。

 

しまった、空がゆっくりと白ずんできてしまった。

もっと遠くまで歩けるはずだったのに、ここでおしまいだ。

光の方を見るしかなくなる。

闇の中であれば、まっすぐだと信じてどこへだって行けたのに。

 

どこからともなく「ご来光ー」という声がする。

光の方を向く。

 

気づかなかった。

道を覆うほどのこれほどの多くの人が行列をなして歩いていたとは。

 

私はその列から外れ、ゆっくりと反対方向に歩き出す。

夜を迎えに行こう。

朝は、多くの人が迎えてくれる。

 

私は、夜に生きる。

 

 

 

白石 静夜(しらいし しずや)

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