皮膚がべたべたして逃げようのない蒸し暑い朝。
まぶたを透ける光を探すように夢の扉を閉めて目を開ける。
窓の外の日は、すでに我が物顔で薄曇りの空を明るく照らしていた。
重い体をゆっくり起こして重力を思い出す。
髪の毛が首や肩にはりつきぞわりとし、乱暴にそれを引きはがす手。
ぺたぺたとフローリングを歩く裸足がすこし冷たくて心地よい。
やらなくちゃいけない大切なこと。
やらなくてもいいけれど何よりも大切なこと。
なんだっけ
頭の中で懸命にそれを探す。
棚という棚と開けて、その奥に隠された大切な何かを探す。
あるのは読めない落書きの紙切ればかりでぐちゃぐちゃしている。
それを見ては捨て、見ては捨て、見ては捨て……
見つけられない手と目は胸の深い部分をざわつかせる。
ひとつ息を吐く。
キッチンに置かれたアップルパイとコーヒーを無造作につかみ取り、机をみる。
そこには一冊のノートと、お気に入りのペンがある。
ドタドタとイラつきを隠せない足が狙いを定めて歩み、椅子はおしりの重みにギシッと恨めしそうな声を上げる。
コーヒーをすする。苦い、美味しい。
体の内側で溶けてゆっくりと広がっていく。
私をだきしめてくれているようだ。
ゆったりと目を宙へやれば、
胸の奥の大切な湖のそばで輝き、いつもこちらを見守っている存在が言う。
「きっと、できるよ。」
その声ははるか遠く、淡い光は靄に隠れてしまって姿も見えない。
……何を?
何をできると宣言する?
私に何ができるって言うの?
きっと、って何?
あなたは誰なの?
どうして何もしてくれないの?
何のために私を突き動かすの?
50パーセントオフのシールが張られたアップルパイの袋を開けて、むさぼる。
味なんてわからない。
甘いような、口の中を小さな針で刺激するような、とろりとした後のぱさぱさした何か。
胸の奥にある凍えるような空間には、その甘さは届かない。
ただ、腹を重くして内臓を引っ張っていくだけ。
それでももう一度その甘さを食もうとする口が許せない。
一緒に来てよ。
私の手を取って。
胸の奥の大切な湖の近くの輝きにすがるような思いで、甘みを咀嚼する。
ノートに落ちたアップルパイの欠片を、ペンでつついた。
まるで、何かを確かめるように。
白石 静夜 (しらいし しずや)